北海道置戸町で生産されている木工作品オケクラフト。道産のエゾマツやシラカバを使った食器は日本でも有数のしっとりとした柔らかな質感。口当たりも素晴らしく、赤ちゃんの離乳食から大人の器までお気に入の一品に出会えるはず。今回は札幌展示会に行ってきました。
オケクラフトの魅力
私が思う一番の魅力は「他には無い木質の柔らかさと軽さ」です。
オケクラフトは北海道に自生しているエゾマツ・トドマツという樹種の「アテ材」を使用した食器作りが始まりです。今までそれらの木材は木っ端にして遊歩道に撒いたり、山林の斜面の養生などに使用される「チップ」や薪ストーブや釜風呂の「燃料」としての利用にとどまるのみでした。
アテ材は斜面に生える木に現れる、人で言えば「腰」のような部分の「年輪の偏り」がある木材の事を言います。建築材料はその年輪が均等で真っ直ぐ生えた、乾燥後の反りもない材料が珍重されており、アテ材のように年輪が左右一方に偏って成長しているようなものは適しておらず、製材化されていませんでした。

しかし、1983年5月に置戸町で開催された講演会に招かれていた工業デザイナーの秋岡芳夫さんが発起人となり、このアテ材を活用した食器製作が始まります。「北国からの新たな生活文化の発信」をスローガンとして同年の11月にオケクラフトと銘を打ち、東京の高島屋で開催された展覧会に出展した結果、今までに無いエゾマツ・トドマツが見せる白い木肌やその驚くべき軽さ、アテ材が生み出す繊細で有機的な美しい木目が好評を得て、現在までの北海道を代表する木工芸品のひとつとなりました。
オケクラフト の魅力と秘密
今ではエゾマツ・トドマツだけに留まらず、カバやその他の木種での作品も多くみられます。私が冒頭でお伝えした、オケクラフトの最大の魅力はこの製作に使われている「エゾマツ・トドマツ・カバ」の柔らかさと軽さなのです。
木製カトラリーといえば「ナラ(オーク)」「ウォルナット」などが耳に馴染みがあると思います。確かにそれらの木種は様々な年代で製品化されており、確かな品質を持ち堅牢であることは間違いありません。だた、オケクラフトが作成しているエゾマツ・トドマツ・カバのカトラリーを手にすると、まず目で見ている物と持っている物が頭の中で結びつかない程の軽さに驚きます。
それもその筈で、生育環境にもよりますがその比重の違いは一目瞭然です。(比重とは重量の指標で、同じ大きさでもその値が小さいほど重量が軽くなります)
・ミズナラ→気乾比重:0.68
・エゾマツ→気乾比重:0.43
・トドマツ→気乾比重:0.40
・シラカバ→気乾比重:0.67
道産木材データベースより引用
参考)陶器と磁器の真密度は同じです。気孔があるために、陶器は、比重1.8~2、磁器は2.3くらいになります。つまり、同じ重さでも、陶器の方が、分厚くなるのです。
陶磁器の熱伝導についてより引用
陶器の比重を約2だと考えると、エゾマツはその5分の1に近い重量になります。私の普段使い慣れている陶器のコップの重量が250gですので、エゾマツ製だとMサイズの鶏卵よりも軽い約50g程度のコップになります。
卵の大きさでは多少の重量を感じますが、コップにすると本当に力が必要のないくらいの軽さです。まだまだ筋力が発達しておらず、場合によっては陶器だと持ち上げられなくて、こぼしてしまうような小さな子供でもしっかりと自分の意思でコントロールできる軽さです。
比重の軽さもありますが木質が非常に柔らかく、さらに作家さん達がひとつひとつ状態を確認しながら丁寧に磨き上げていますので、食器として使った時の口当たりはとても優しく、柔らかいものに仕上がっています。なかなか口当たりを試す機会は多くはないものですが、この優しさはオケクラフトの特徴のひとつです。

また、シラカバの比重はナラと同等ですがその木質はとてもきめ細やかで、美しい白い風合いが特徴です。触れた感じは「さらっ」っとしていて、手を触れただけで我々がよく知る木材との違いに気付きます。毛羽立ちというものは無縁とも思える、そのしっとりとした質感は他にはなく、スプーンなどのカトラリーに加工されたものはシンプルながらとても使用感の良いものになります。
このシラカバを私が薪として割った時には、断面の美しさに見惚れて手を止めてしまうほどです。質感や色味が好きなので、自宅の床はこのカバを使用した無垢床にしていまして、広く使われているオーク等に比べて足触りと足なじみが柔らかく、とても気に入っています。カトラリーも含めて、直接触れる機会が少ないのがとても悔やまれます。
と、思っていたら面白い取り組みをされていました。
その名も「スプーン体験会」
置戸町公式ブログ おけとの窓より引用
「オケクラフトのスプーンって、使いやすいのかな?」 「木のスプーンってどれも同じじゃない?」 などどいうお客様の声にお応えしまして、オケクラフトスプーンの体験会を開催します。スプーンは直接口に入れるものなのでその違いははっきりわかります。オケクラフトのスプーンは仕上げが丁寧で、どの木のスプーンにも負けていないという思いから、実際に使ってみてその良さをもっと知っていただきたいと企画しました。
オケクラフト 森林工芸館ブログより引用
というこのスプーン体験会、スプーンを口に入れるのではなく「オケクラフト のスプーンを使ってソフトクリームを食べる」というなんとも“オイシイ”企画でした。オケクラフト としても自分たちの作るカトラリーに自信を持っていますし、私自身も冒頭に触れたように、オケクラが生み出す作品群は他にはない魅力があると感じています。
また、工芸品の枠組みに囚われずこのような体験会であったり、札幌・東京での展示会や各種イベントにも積極的に出展していて、価値を広めようと前向きに活動しているのも一つの魅力だと思っています。
オケクラの木製食器は離乳食から大人まで
これだけの品質の良さと柔らかな使用感がありますし、木製食器というその材質がもつ優しさも含めて大人の方はもちろん、お子さんの離乳食が始まる段階で使いたいと思う方も多いのではないでしょうか。
すくすくギフト
実は置戸町で生まれた赤ちゃんには「すくすくギフト」という食器セットをプレゼントする事業を行なっています。贈ってもらったら嬉しいですし、活動として素敵です。
上の写真のように「お椀・汁椀・お皿・小皿・カップ・スプーン・トレイ」がその年生まれた赤ちゃんにプレゼントされます。お食い初めに使えるように生後100日を迎える前に送られていて、置戸町の暖かな気遣いがそこにあると感じます。
置戸町がこの活動を始めて2018年で5年目となり、2018年の9月に行われた贈呈式で、すくすくギフトを贈った総数が100件を超えました。人口約3,000人の置戸町内で100件超ですから、少なくとも全体の3%は新生児が生まれた家庭になり、その子達がこれからもず〜っと「自分の食器」として使い続ける姿は羨ましくもあり、微笑ましい光景です。
また、オケクラフト は置戸町の認定こども園・小中学校、さらには高校にまで使われていて、給食の時には全員が地域の木材由来の食器を使用し、木の優しいぬくもりを感じながらご飯を食べています。物質的な豊かさも感じられるかもしれませんが、それよりも木製食器を通して感じられる「色」「香り」「手触り」「暖かさ」「柔らかさ」などを五感で感じ、心が豊かになっていくように思えます。いずれにせよ、オケクラフトが持つ魅力を町全体で共有しているのが素晴らしいです。
浸漬法とポリウレタン塗装で丈夫
木工製品といえばその天然材質による、メンテナンスや使用方法の難しさが頭をよぎると思います。しかし、ご安心を。細かい説明は省略しますが「樹脂含浸強化法」と言う製材方法が取られていまして、これにより木材には水や油が染み込む事は無く、いわば「メンテナンスフリー」となります。
- 素材に樹脂が染み込み強度が上がる
- 耐水・耐油性が向上する
- 防腐剤成分ではなく人畜無害
この工程の後に、艶出しや表面保護を目的としたポリウレタン塗装を行い製品となります。
オケクラフトの食器自体は置戸町の学校給食などで広く使われていますし、給食で器を使用するには90度の熱湯に3分以上浸ける必用がありますので、実用に耐えるのは言うまでもありません。もちろん食品衛生法で認められている製法なので安心して使えます。
置戸町とオケクラフト
工房と担い手
2018年11月現在オケクラフトは27の工房を構えています。色々な作風がありベテランの方から新人さん迄、幅広く活動されています。
オケクラフトがデビューした翌年の1984年(昭和59年)、まちの産業としてオケクラフトを進めていくため、作り手養成が急務の課題となりました。そのため、研修終了後、町内でクラフトの生産活動に従事することを条件とした本制度がはじまりました。塾生は、様々な研修を通じて、作り手になるために必要な知識や技術を学びます。2年間の研修を終えた後、オケクラフトの作り手として、町内で工房を構えて活躍しています。
置戸町役場HP オケクラフト作り養成塾 より引用
置戸町ではこのように「次の担い手」の育成に力を入れており、町の主幹事業として育てています。この継続した取り組みがあり、技術の継承を基に作家さん達の新陳代謝もよく、新しい作風であったり、伝統を取り入れながらも現代の需要に沿った作品作りを進めるなど、現在の木工製作において明るい状況も強みの一つです。
置戸町ざっくりデータ
- 人口約3,000人(2018年10月)
- 面積の約8割が森林
- 札幌から約300㎞

置戸町(オケト)で作られている工芸品(クラフト)という意味合いで名付けられた造語が「オケクラフト」です。オケクラの愛称で呼ばれる事も多い名前です。ちなみにオケトとはアイヌ語のオケトゥウンナイ(鹿などの動物の皮を干すところという意味)が語源になっています。
産業では北海道でお馴染み「ジャガイモ」「ビート」の他に「ヤーコン」など珍しい作物や乳肉牛の生産も行なっており、林業そして木工が主な産業です。
置戸町の公式ブログを見ると、大変失礼ながら人口約3,000人の町には見えないほど非常に熱量が高く、赤ちゃんからお年寄りまで一人一人大切にしており、町全体が生き生きとしているのがブログを見るだけでも伝わります。こう、人と人の繋がりが密接で好循環している印象です。
素晴らしい。
置戸町の公式ブログはこちら
2018年札幌展示会
初開催は2004年ですので今年で15年目の開催になります。今回は27工房のうち13の工房が出展していました。展示会ですが、直接その場で購入する事もできます。
札幌オケクラフト 展開催場所
2018年の開催場所は「コンチネンタルビル」の地下一階でした。
隣接したタイムズの駐車場や他の駐車場も隣接していますので、車での来場には困ることはありません。駐車料金は概ね60分300円前後です。

コンチネンタルビルには初めて伺うもので、どこから入ったら良いかわかりませんでした。地上から見える一階は銀行になっていまして、石山通に面した一角になにやら怪しげな「地下への入り口」があります(笑)ほんと、最初入るところここで良いのかなぁ…と思った程です。


階段を降りた先が廊下になっており、そちらの奥で開催されていました。
中は開けた雰囲気で自由にオケクラフトを眺める事ができます。もちろん、カトラリーやステーショナリーですので触って見る事ができますし、是非触ってみて欲しいです。
触っただけでその魅力が伝わるはずです。
札幌展での作品写真
ここからは、ねじおギャラリーをお楽しみください。本当はもっと撮影したかったのですが、自分が楽しむ方を優先してしまいました…コップやスプーンはもちろん写真以外の展示商品は種類も数も豊富でした…すみません(笑)









土日限定で「木っ端遊びコーナー」が開催されており「え?これも木っ端でいいの!?カッティングボードじゃないの!?」と言わんばかりの贅沢な木っ端もちらほらあり、息子の創作意欲が刺激され色々作ってました。割といい出来で関心。
また、奥様からも関心の一言が「木っ端ひとつひとつ、全部が面取りしてあった。」と。他の木っ端遊び系の展示だと、本当に端材のみでエッジがトゲトゲだったり、ヤスリ掛けしてなかったりします。オケクラ展は我々が見る限り「すべて」下処理してくれていました。本当にこういう所で思いやりを感じます。素敵。
大量消費時代を展示会で想う。
今回の展示会でもオケクラの魅力をが発揮されていました。やはり「触ってみる」と言うのが一番です。手に持った質感やその軽さ・柔らかさが素晴らしいものでした。また、今まで知らなかった作品と出会う事で感銘を受けましたし、より一層オケクラや自分が住む北海道が好きになりました。
作家さんとお話しする機会があったのですが、脱サラの後に養成塾に入った方で奥様共々工房を構えてらっしゃる方でした。
振り切った選択肢は羨ましいものの、実際はなかなか出来きる事ではありません。因みに写真にもある「わっぱ」はエゾマツを使用しており、エゾマツわっぱは日本で唯一との事です、日本でと言う事は恐らく「世界でもここだけ」の作品になるでしょう。工房の名前は「工房 夕花野」さんです。
また、今後の展望も伺う事が出来て、数年先の事を視野に入れて動き出しているという状況でした。オケクラフトは文字通り「工芸品」と言うカテゴリーなのですがイメージだと「伝統」「少数精鋭」という物が付いて回ります。しかし、実際のところ夕花野さんを含めて皆さん「前を向いて」いらっしゃいます。
工房の数や塾生の方は増えていっているようですし、従来の技術を使って新しいものを創造してみたり、逆に現在に昔からある風習や伝統を取り入れた物を生み出したりと、私はその創造性の高さに心を打たれ「進み続けている」という想いをとても感じ、感動しました。何かに打ち込んでいる方々は素敵ですし、自分もそう在りたいと思っています。

上の写真は今回購入したスプーンです。スプーンならエゾマツとかじゃないの?と突っ込まれそうですが、アウトドアでの使用を想定しているので堅木を選択しました。根付部分の紐もクルミやサクラなどで染色され、そんなこだわりも嬉しいポイントの一つです。
私は前職が小売でして、そこでは絵に描いたような「大量生産」「大量消費」が当たり前で、自分が企画して製造発注した数万点(場合によっては十数万点)の商品は数ヶ月から一年程度でその役目を終えてゴミ箱行きです。もちろん、耐久性を高めるような物を企画していたのですが、そこで「価格の壁」にぶち当たります。
工程の多い特殊な構造で耐久性を上げたり、機能的に良い素材を使えば高品質な物は出来るのですが小売としてマストなのは「売れる事」です。結果“我々”は消費者が「買える範囲の価格の物を作る」のです。その中で出来うる限りの交渉や、発注ロットの見直しで品質を上げたりして差別化するわけですが「価格の限界」は絶対にあります。モノづくりをしている方なら分かるはずです。
消耗品でもある以上仕方のない事ではあるのですが、その事業形態の「ぎこちなさ」に違和感を覚えています。もちろん、万人が「ある程度の品質」のものを「安く」手に入れられる事で生活が豊かになっていったのは理解しています。その状況があったからこそ今があるとも思います。
ただ、それは過去の話だと思っています。
日本が安く物を仕入れられているのは諸外国のおかげです。あまり深くは書きませんが今までの状況とは大きく変わってきていますし、この状況が未来永劫続くわけではありません。大手のチェーンストアの台頭で市場の価格が決まり、いつの間にか大多数の方の価値観が「質より物(量)」に移ってきているのではないでしょうか。
[s_ad]本当は身近なはずの生活工芸品を見ても「値段が高い」という印象ばかりが先行して、展示会でも「もっと安いのないの?こんな高いのじゃなくてさ。」という意見をおっしゃる方も居ました。それらの価値観は人それぞれではありますが、私はとても悲しく思います。価格が高い・安いと言う事だけではなく「市場(消費者)の価値観が商品(生産者)と齟齬がある」と言う部分です。
低価格でそこそこの品質の物が出回っている為、悪い意味で消費者の目が肥えてしまい、本来あるべき品質と価格のバランスが取れなくなり、国内生産の商品が「高い」という印象だけが強くなってしまっているのではないでしょうか。
一方で今では色々なアプリを通して、個人作家さんが自分の作品を世に送り出していますし、札幌を含めて様々なところで「ハンドメイドマーケット」が開催され、消費者が物を見る目として「品質・価値」の部分に再度スポットが当たっている状況が生まれています。この良い流れがどんどん加速して、市場と商品の価値における齟齬が少しでも解消されていく事を望みます。
ですから私は今だからこそオケクラフトの様に、国内生産の価値のある物を作っている環境・人達を応援したいのです。まだまだ、具体的に動けていませんが当記事を書きながらその想いが強くなったのを感じます。
是非、皆さんも「一つ」で構いませんので、オケクラフトの木工製品を手にとって使ってみてほしいです。そこから始まる生活の豊かさ、心の豊かさは必ずあります。
まとめ
- 最大の魅力は柔らかさと軽さ
- 工業デザイナーの秋岡芳夫氏が進言
- アテ材を使い始めたのが最初
- 町の赤ちゃんにすくすくギフトが贈られる
- 町内の認定こども園、学校給食に使用
- 丈夫な製法で安心安全
- 作家の養成塾がある
- ベテランから若手まで幅広く活躍
- 今後も楽しみ
なかなかのボリュームになりましたが、最後までお読みいただきありがとうございますm(_ _)m オケクラフト商品は、北海道イチオシの木工カトラリーで間違いありません。新しい取り組みが今後も続くでしょうし、確かな品質がそこにはあります。是非一度手にとってみましょう!