墨の様な石炭の様な塊がいくつもある炉内

薪ストーブ内にある灰の塊の正体を突き止めた。

墨の様な石炭の様な塊がいくつもある炉内

薪ストーブを使っていると何だか生まれてくる「灰の塊」は一体なんなのか。これは良いものなのか、それとも悪いものなのか最初は戸惑います。その正体を探っていきます。


灰の塊の正体は「クリンカ」燃焼生成される物質

床に置かれた茶色のざらついた石
これをフライドチキン石と呼んでます

上の写真は薪ストーブから出た塊…ではなく、とある2000M級の山にあるお鉢(山頂付近)で拾った石です。溶岩が固まった見た目の軽石みたいな重さでスカスカしていて、尚且つ何だかごちゃごちゃと不純物が混ざっている様な石です。

そう、灰の塊にそっくりなんですよね。
下の写真と結構似てます。

茶色の多孔質な塊
よく見ると融けた跡があります

すなわち私が山で拾った石と同じ様に、何かしらが融けて固まったものが灰の塊である「クリンカ」となります。そんなの見たら分かるわ…というご意見はごもっとも(笑)

実はコレ薪ストーブだけの現象ではなく我々がゴミがたどり着く「焼却炉」や「火力発電(石炭)」でよく見られる現象なのです


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クリンカ生成の条件

実は生成されるには条件があって…

「超高温」になっている事

が必要です。
そもそも薪ストーブは燃焼しているわけですから高温である事は当たり前ですので、ちょっと過剰に「超高温」と表記してみました。

と、いうのも薪の通常燃焼の温度としては熾きの状態で7〜800℃前後になりますが、ここで言う超高温は1000℃です。

さらっと薪の燃焼をおさらいすると…

90℃:薪の水分が蒸発
260℃ :可燃ガス発生(火元があると引火)
450〜600℃ :薪が燃え出す(自然発火)
7〜800℃ :熾に移行しながら燃焼
1000℃:熾が白く見える状態(最高温度)

大まかに表すとこんな感じ。

色々なデータが出ていますが薪の最高温度は「1000℃」程度と考えて問題ありません。炭素が主体の白炭では1200℃前後まで到達しますが、木材としての薪なので薪本体の温度は概ねそれくらいになります。

また、ナラに代表される様な堅木では最高温度が1040℃前後…という細かい話もありますが科学的な話に飛んでしまうので、大まかに言って1000℃です。

この燃焼により灰に含まれている成分が超高温にさらされ融け出し固まったモノが灰の塊「クリンカ」と呼ばれるものになります。


薪ストーブで灰の塊(クリンカ)が出来る理由

真っ赤に燃焼する熾と炭化した薪
熱くて写真撮るのも一苦労…

ずばり
高温で薪ストーブを運転した事」です。

薪(木材)に含まれる成分はそれぞれによって違いますし、一概に「この成分が固まったものだ」と断定しにくいものです。

ただ要素としてはコレだろうな〜というものはありまして…

参考論文:木質系バイオマス燃焼灰の安全性評価および有効利用

上の論文で計測された灰分(まさしく灰の成分)の成分分析結果で、計測された主要成分が融け出す温度を調べてみると…

酸化ナトリウム:1132℃
酸化マグネシウム:2852℃
酸化アルミニウム:2072℃
二酸化ケイ素:1710℃
リン酸:42℃
酸化硫黄:16℃
酸化カリウム:490℃
酸化カルシウム:2572℃
酸化チタン:1843℃
酸化クロム:2435℃
酸化マンガン:1945℃
酸化鉄:1565℃
※全てウィキペディアより要約

となっていまして、リン酸や硫黄・カリウムを除くと全てが薪の最高温度である1000℃を超えています(重要)※因みに薪が燃えて(酸化して)いるので灰の成分としては概ねが酸化化合物になって出てきます。

もし何かの理由で1000〜1800℃の温度が出てたとした場合、薪ストーブが融けてます…

灰の成分が融けないんじゃ灰の塊であるクリンカが出来ないじゃないか‼︎

となってしまいますよね…


どうやってクリンカになるのか?

ほとんどの灰分が1000℃超の融解温度になっていますが、それらが何かしらの理由で塊になっているのは間違いありません。むしろ融け固まっている以外には考えられないのです。

何かヒントになるものは無いかと考えました。そういえば日本は昔から鍛造を行なっていますよね。代表的なものといえば…

そう「日本刀」です。

日本刀も「融かして固める」(※本当は鍛造なので融かすのではなく“鍛える”が正しいです。)工程で刀を作ってますが、先ほどお伝えした様に1000℃程度が最高温度ですから、鉄は融かせないのでは?というところに戻ってしまうのですが…

中心が白く燃焼している熾
中心温度は1000℃前後

刀鍛冶では最も高温になる「松炭」に空気を送り続けて「1300℃前後」まで上げて砂鉄を三日三晩熱して作成されます。この時鉄の融点は1538℃ですから、完全に融けずに「アメ状」になります

要約元:備中國住義久作−日本刀が出来るまで作刀工程

ここから分かる事は二点

  1. 炭だと最高温度が上がる
  2. 融点に達せずとも「軟化」は可能

と言う事です。
軟化とは文字通り融点に近い対象が柔らかくなって「くっ付きやすくなった状態」です。
焼却の観点では「角が取れた」なんていう表現もされる様です。そこから考えると…薪ストーブであっても

  • 木種によっては1000℃超えも有り得る
  • 1000℃程度でも「軟化」は可能

と、いうところです。さらにこれらを踏まえて先ほどの灰分の主要成分を見てみると…

  • 酸化ナトリウム:1132℃
  • 二酸化ケイ素:1710℃
  • 酸化鉄:1565℃

この3つが軟化して薪ストーブ内でのクリンカ生成の要因になっていると考えられる成分です。さらに言えば1000℃に一番近い酸化ナトリウムは間違いなく含まれているはずです。

因みに万が一1200〜1300℃まで温度が出てると、薪ストーブ本体が柔らかくなる(笑)位になってしまうので1000〜1100℃程度が最高温度になっているでしょう。

また、灰の成分の50%程度を占める「二酸化ケイ素」はよく「シリカ」と呼ばれています。このシリカはガラスの原料であったり、身近なところでは「の主成分だったりと結構身近な存在です。

隕石の様なざらついた表面のクリンカ
隕石のようなクリンカ

クリンカって山ほど産出はしませんが「それなりに」は出てきますよね。使えば多少なれども出てくると言うか。

そもそも灰の重量なんて軽いものですから、それらが固まったするならば灰の「主成分」がそれらを占めるはずです。

灰に含まれている成分のうち数%程度の成分がクリンカを形成するのであれば、おそらく膨大な量の灰が必要になってきます。

上の写真のクリンカは約7gです。そんなものが我が家のストーブの中にはこんな感じでゴロゴロしていますので…

灰の主成分がクリンカを形成していないと説明しにくい状況ですよね。

薪ストーブにゴロゴロある石ころみたいなもの
クリンカ軍団

また、融解しているのではなく「軟化して出来た」と言う部分でも、完全に融解して塊になったのであればある程度の強度がでますが、クリンカ全般に言える事は「脆い」と言う事です。

この軟化して生成された事がクリンカの「脆さ」にもつながっていると考えています。また、小突くと「カンカン」といった金属音に近い音がするのは微量ながら鉄分も含まれているのでは無いかと考えています。

したがいまして灰の塊の正体は
高温により生成したシリカ主体のクリンカ
である可能性が高い物体です。


まとめ

  • 灰の塊は「クリンカ」と呼ばれる
  • 超高温で灰の成分が固まったもの
  • おそらくは「軟化」して固まった
  • 主成分はシリカ(ケイ素)

謎の灰の塊の正体を掴めました。最初はいったい何なんだコレは!?と思っていましたが正体が判明すれば何てことありません。ご心配なく(笑)みなさまの良い薪ストーブライフの参考になれば幸いです!

このクリンカの対応(処理)方法を別記事にまとめました。
意外な処理方法に口が塞がらないかもしれません(笑)

別記事:クリンカとの付き合い方

それでは良い薪ストーブライフを!(挨拶)

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